地に呪われたる者

地に呪われたる者

2024-02-13 2024-02-15

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フランツ・ファノン 「地に呪われたる者」 みすず書房

わたしがファノンをはじめて知ったのは大学院生のころだったと記憶している。参加していた左翼の読書会で話題にあがったのだ。
これほど重要な人物をなぜそれまで知らなかったのだろうという気もする。

ファノンは 1925 年、フランスの植民地であったマルティニークに生まれた。カリブ海・西インド諸島南部の小アンティル諸島に属する島である。

第二次世界大戦ではド・ゴールの「自由フランス」に参加し、戦後は精神科医としてフランス本国、のちにアルジェリアで医師として勤務した。 その後ファノンはアルジェリア民族解放戦線(FLN)に参加し、そのスポークスマンとして活動するかたわら、独自の革命理論を「地に呪われたる者」などに記した。 アルジェリアは 1962 年に独立を果たすが、ファノンはそれを目前とした 1961 年に白血病で亡くなった。

ファノンは人種差別と植民地暴力に抗した。 彼はマルティニークに生まれた黒人1として、アフリカ黒人に対するエリート的意識をもつ一方で、白人社会における皮膚の色による差別に直面する。その体験の中で書き上げられたのが「黒い皮膚・白い仮面」だ。

「地に呪われたる者」は皮膚の色による差別にとどまらず、植民地化による疎外・抑圧のすべてに抗して書かれた。そこには激烈な暴力論があり、植民地革命の実践についての記述があり、ファノンがアルジェリア現地での臨床を通じて直面した、植民地における精神病の問題も反映されている。

分割された世界、マニ教的善悪二元論の、不動の世界、銅像の——征服をなしとげた将軍の銅像、橋を架けた技術者の銅像の——世界。自己に確信を抱き、鞭に破れた背骨を石また石で圧しつぶす世界。これこそ植民地世界だ。現地人は閉じこめられた存在だ。アパルトヘイトは、植民地世界の分割の一形式にすぎない。現地人が何より先に学ぶのは、自分の場所にとどまること、境界をこえてはならぬということだ。だからこそ現地人の夢は筋肉の夢、行動の夢、攻撃的な夢となる。私は跳躍し、泳ぎ、つっ走り、よじ上ることを夢見る。高らかに笑い、ひと跨ぎに大河をこえ、多数の自動車に追跡されてもけっしてつかまらぬことを夢見る。植民地時代であっても、原住民は夜の九時から朝の六時まで、自己を解放することをやめはしないのだ。2

ファノンの著書のタイトルはどれも端的だ。「地に呪われたる者」とは、植民地支配の悪を端的に示している。それはある人間の故郷の地が植民地暴力によって支配され、アイデンティティの根幹が呪われることだ。


  1. 父は黒人、母はオランダ系の混血であったらしい。 

  2. 海老坂武「人類の知的遺産 78 フランツ・ファノン」講談社、p313 

# revolution # philosophy # postcolonialism